第64章 首を絞めたくなりました
「ステイ」
『あ、また私を犬扱いしましたね』
「落ち着いて。彼らの言ってる事は、筋が通ってる。実際に迷惑をかけてるんだから、何を言われても仕方ない」
『いや』
「いや、じゃない」
『でも』
「でも、もない」
『っ、』
「熱湯を浴びせるなんて言語道断」
『熱湯じゃなくてコーヒーで』
「屁理屈もなしだ」
『………』
「ふふ、その不服そうな膨れっ面。笑える」
天は薄い笑いを浮かべ、スタジオを後にしようと体を反転させる。私はそんな背中を見つめた。少し寂しそうで、悲しげだった。
歩き出した天は、人差し指を立て口を開く。仕方なく私も後を追った。
「ほら、復唱して。
“ 何を言われても気にしない ” 」
『…何を言われても、気にしない』
「そう。偉いよ。大体、自らトラブルになりそうな事に首を突っ込むなんてキミらしくない。得意でしょ?見て見ぬ振り聞かぬ存ぜぬは。
はい。これも復唱して。
“ トラブルは回避するもの ”
…………ねぇ、復唱はどうし……って、あれ…?プロデューサー?」
やはり、無理だった。あのような心無い言葉に、耳を塞ぎ遣り過すなど。
トラブル回避。それも確かに大切な処世術だ。でも時には、そんな事よりも大切な事があるのではないだろうか。
そう考え至ったのと同時、天の言葉を復唱するのをやめて、身を翻していた。
『どうも、お疲れ様です』
「あっ…、お、お疲れ様です!」
「お疲れ様です…!」
私の顔を見るなり、2人はサッと顔色を変えた。分かりやすく、さっきの会話聞かれたかな?と顔に書いてあった。