第64章 首を絞めたくなりました
「器用なくせに、変に律儀。人を傷付ける言葉をわざわざ選んで、同時に自分も傷付いてるんだから」
『認めてしまうのは…悔しいですけど。でも、初めて気付かれました』
「当然。どれくらいボクがキミを見ているか、知らないわけではないでしょ」
『…ただ、私が暴言を吐いているだけ。相手を気遣う事の出来ない愚か者なだけ。そうは考えないんですね。貴方は』
「勿論、そういう人間もいるのは知ってる。でも、キミはそうじゃないから。
相手が傷付いたのと同じだけ、心を砕く人間だ。自分が投げた言葉で傷付けたのなら、尚更。それと同じ分だけ、キミは自分で自分の心を切り刻んでる。
—— そして、その傷を相手には見せないで、背中側に隠してる」
買い被りすぎだ。私はそんなに、お優しい人間ではない。
と…言いたいのに。胸が、心が、天の言葉を喜んでいて、上手く言葉になって上がって来てくれない。
未だかつて、存在しただろうか。自分の事を、ここまで深く理解してくれた人間が。ここまで深く、私を知ろうと見つめてくれた人間が。
いや…1人、いた。
彼、龍之介も、天と同じような言葉を私にくれた。人が必死に背中の後ろに追いやった傷。いとも簡単に、2人して見つけてしまうのだから、堪らない。
その事実が、嬉しいけど恥ずかしくて。でもやっぱり、どうしようもなく嬉しくて。思わず今の立場を忘れて、天に甘えてしまいそうになる。
しかし、それが許される私達ではない。
何故なら今の私達は、アイドルとプロデューサーという関係に過ぎないのだから。