• テキストサイズ

引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第64章 首を絞めたくなりました




—————


天にだけ見えていた暗雲。それが私にもはっきりと分かるようになったのは、千に会いに行ってすぐ後の事だった。


「うーーん……」

「すみません。もう一度、お願いします」


唸る監督が何かを言う前に、天はまた自分でカメラを止めた。もうこれで何テイク目だろうか。これまでのスムーズな撮影が嘘のように、天はNGを連発していた。

セットからこちらに戻って来てすぐに、自ら監督の隣に歩み寄る。


「まぁ、悪くはないんだよ。悪くはないんだけどね…。これだ!って感じでは、ないよね…やっぱり」

「それは、ボクも感じています。ご迷惑をかけて、申し訳ありません」

「いや、難しいシーンだ。妥協せず時間をかけようじゃないか」


監督の言う、難しいシーン。天を苦心させるそのシーンを説明すると…

ヒロインと天馬が向かえる、同棲生活ラストの日。ついに2人は、体を繋げる事となるわけである。
問題のシーンは、その直後。

愛する女性と結ばれ、幸せなはずの天馬が…
一雫の涙を 流すのだ。


『天、少し休』

「監督。もう一度お願いします」

「分かった。肩の力抜いて、行ってみようか!」


私の隣をすり抜け、彼は再びセットへと向かう。

衣服の乱れたヒロインが、胸元をシーツで隠して天馬を見つめている。そして小さく、案じるような声で男の名を呼ぶ。
天馬は そんなヒロインに背中を向けたまま、ベットの縁に腰掛けて…
静かに、涙を流すのだ。


「………ふぅ」


監督の、疲れを吐き出すかのような遠慮がちな溜息。隣にいた私だけがそれを聞いた。

/ 2933ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp