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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第64章 首を絞めたくなりました




くるぅり、ゆっくりと2人の顔がこちらを向く。なんとなく居心地の悪さを感じるのは気のせいだろうか。彼らは、この密室でどんな時間を過ごしたのだろう…

千が、私を意図的に追い出したのには気付いていた。天が、彼に相談事がある事も。そして、私が居たのではそれを話しづらいであろう事にも、気付いていた。

私は考える。天の抱える悩みは、解決したのだろうか。千との会話は有意義なものとなったのだろうか。
しかし この微妙な空気感からは、是だったのか非だったのか、悟るのは難しい。


『カフェ、凄く混んでましたよ。ご自分で行かなくて正解でしたね』はいどうぞ

「ありがとう。エリちゃん」

『ですから名前…』

「そろそろ行こう、プロデューサー。千さん、ありがとうございました」

「もう行っちゃうの?もっとゆっくりしていけば良いのに」


名残惜しそうに言った千を、立ち上がった天は見下げた。そして丁寧な口調で誘いを断ると、ドアへと向かうのだった。

それに続く私へ、千は最後に寂しそうな表情で言う。


「またね。春人ちゃん」

『…はい。ありがとうございました』


私がありがとうと彼へ告げたのは、天が世話になったと思ったから。

部屋を出た私達。前へ行く天の背中を見つめて思う。彼が抱えていた問題が、解決していたら良いのにと。

このタイミングだ。おそらくは、いま撮影中のドラマ関係の事だろう。私の目から見た分には、上手くいっていると思っていたのに。何か、不都合があったのだろうか。千には相談出来て、私には出来ないのか。

言いたい事、訊きたい事はたくさんあった。でも私は、口を噤んだ。きっと、天は天なりに思考を重ねている最中だろうから。


私には見えない暗雲が、彼の上にだけ現れている。そんな言い知れぬ不安を、懸命に押し殺した。

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