第64章 首を絞めたくなりました
「……確かに、千さんの言う通りかもしれません」
「簡単に認めちゃうんだね。つまらないな…」
「つまるとか つまらないとかの問題ではありませんけど、なんだか少し、突破口が見えた気がします。
アドバイス、ありがとうございました」
「ふぅん。あんな言い方したのに、怒らないのね。君」
「図星を突かれて怒るほど子供ではないつもりです。それに、優しい言葉で諭して欲しいなら、助言を求める相手に最初から貴方を選びませんよ」
「……そう」
「藁にもすがる思いで、ここに来たので」
「僕のあんなアドバイスが、君の役に立つかどうかは分からないけど…
天くんが、上手くいくように願ってるよ。頑張って」
「ありがとうございます。必ず、やり切ってみせます。これからのTRIGGERの為にも、自分の為にも。
あとは…わざわざ同棲までして、協力してくれているエリの厚意に報いる為にも」
「うんうん……え?いま、なんて言ったの?」
「同棲してくれている、エリの為にも」
「…ふふ、首を絞めてやりたくなったよ…っ」
「奇遇ですね。ボクも、彼女の背中に無数の痣を見付けた時は 貴方の首を絞めたくなりました」
「あ、あれやっぱり気付いたのか」
「気付くように仕掛けたんでしょう」
「まぁね。
じゃあ、あれだ。君がわざわざ僕に彼女と同棲していると明かしたのは、その報復かな」
「そう受け取ってもらっても構いません」
「そうか。はぁ…良くない事をすると、やっぱり自分に返ってくるんだなぁ。多分、君が思ってるより効果は覿面だよ。羨ましい…
彼女との同棲は楽しい?何して毎日を過ごしてるの?」
「イチャイチャしてます」
「イチャイチャ…」
「ふふ」
「…ふふ」
『戻りました。
うっわ、何ですか この空気』
私がコーヒー片手に楽屋へ戻ると、室内では2人が怪しげな笑顔を相手に向けていた。
共に笑っているというのに、部屋には重苦しい空気が満ち満ちていた。思わず換気をしたくなるくらいだ。
何があったか知らないが、やはりこの2人を残して側を離れたのは失策だったかもしれない。