第64章 首を絞めたくなりました
「ボクは、格好付けているつもりなんて」
「そうかな。
じゃあどうして、楽くんや龍之介くんに相談する前に 僕のところに相談に来たの?彼らも、演技にはそれなりに定評があるだろう」
「それは…」
「それに、エリちゃんの前で話が出来なかったのは、どうして?わざわざ僕が彼女を遠ざけるまで、本題に入らなかったよね」
「……」
「君が答えられないなら、僕が代わりに教えてあげようか。
君はね、仲間に格好悪い自分を晒したくないんだよ。仲間の前では、常になんでも完璧に、器用にこなす九条天でいたかったんだ」
昔、相方に1ヶ月間シカトされた事がある。
どうしてそんな仕打ちを食らったかというと、僕の放った言葉が原因だった。
失恋話を聞かされた際、未だその女性を引きずっている彼に僕は言ったのだ。
“ 自分をいらないって言った女の子の事考えてる時間が愉快だから、まだ落ち込んでるんだよね ”
万理からは、未だにこの話題をネタにされる事がある。彼に言わせると、どうも僕は 相手を慰めようと思ってハンマーでぶん殴るタイプらしいのだ。
今では随分マシにはなったと思っていたが、やはり不得手だ。歯に絹着せるという行為が。
「そんなふうに自分を守っている君が、役になりきるなんて無理だ。
もっと曝け出してみろよ。恥をかきたくない。格好良い自分でいたい。なんていうのは、九条天の独り善がりな気持ちでしかない。
TRIGGERの天才センターって肩書きを一度かなぐり捨てて、全身全霊で役の男になり切ってみたら?」
僕に言えるのは、こんなところかな。
そう締めくくるまで、彼は食い入るように耳を傾けていた。一切顔色を変えずに。一度も僕から目を逸らすことなく。一音も聞き漏らすまいという様子で。
テレビで見る以外の天は、可愛さに欠けているな。そう思った。肝が座っていると言い換えてもいい。
痛いところを突かれて、動揺して…首でも締めに来てくれた方が、まだ可愛げがあるというものだ。
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