第64章 首を絞めたくなりました
「すみません。千さんの事は、尊敬しています」
「ふふ、ありがとう」
「二階堂大和にも、貴方がアドバイスをしたんじゃないですか?」
「まぁ…そうなるのかな」
「殻を破ったって、さっき言っていましたよね。どうやって彼は、役に入ったのか。どうすれば、ボクは完璧に演じる事が出来るのか…
貴方の、助言が欲しい」
天は力のこもった目で、遠慮する事なくこちらを見る。彼の内に秘めた強い意思が伝わってくる心地だった。
その気持ちに、こちらも生半可な想いで応えてはいけないと。本能が言った。
「君さ、さっき撮影は上手く行ってるって言ってなかった?」
「今のところは上手く演じられていると思います。ボクが不安を感じているのは、この先の撮影です。
どうしても…役柄の気持ちが理解出来ないシーンがあって」
「なるほどね。まぁ、物語が進むにつれ役の心情も変化していく。それに置いていかれたとしても、何ら不思議じゃない」
「ボクは…置いていかれる訳にはいかない。なんとしても食らいついて、役を演じ切りたいんです。
教えて下さい。どうしたらボクは…台本の中の男になりきれますか」
教えて下さい、か。
まるで僕が、正解を持っているかのような言い方だ。そんな大層なもの、この僕が持っているはずないというのに。
彼の力になりたい。助けてやりたいという気持ちは本物だ。
しかし僕は…どうも優しい言葉を選ぶという行為が苦手だった。
「うーん、じゃあ天くん。とりあえず…格好付けるのやめようか」
「はい?」