第63章 彼氏でしょ
この場にいる全員の自己紹介も済み、いよいよ本題へ話が移っていく。
まずは監督が、このドラマに込めた意気込みやコンセプトを語る。
「愛してると言ってくれ。は、原作が少女漫画だ。一番の見所はやっぱり、ヒロインが 魅力的な2人の男の間で揺れ動くシーンだ。そのドキドキが、視聴者にも伝わるように演じてもらいたい。
どっちの男を選ぶんだろう?!って、最後の最後までワクワクして欲しいよね!」
熱のこもった彼の言葉に、キャストもスタッフも、全員が頷いた。
そして、読み合わせが始まる。物語の冒頭。ヒロインと、その幼馴染である天馬の ほのぼの会話シーンから。
「天馬、見て見て?じゃーーん!例のチケット、手に入ったんだよ!」
「それ、キミがずっと観たいって言ってた舞台の?」
「そう!しかも、最前列なんだぁ。凄いでしょ?2枚あるから、一緒に行こう?」
「うん。喜んで。
嬉しいのは分かったから、ほら前を見て歩い」
「わっ!」
「危ない!
……だから言ったのに、大丈夫?」
「あ、ありがとう…天馬が支えてくれたから、平気!」
「ふふ。キミは、昔から何も変わらないね。危なっかしいったらないよ。本当に、そんなだから 目が離せないんだ」
天の表情と声色は、しっとりと色気に濡れていた。とてもじゃないが10代の青年には見えなかった。聞こえなかった。
幼馴染に恋をする、熱っぽい瞳。長きに渡り、大切に彼女を見守って来たのであろう優しい愛が伝わって来た。
まだ読み合わせ段階だというのに、圧倒的な演技力、役への没入感。それらは監督達にもしっかりと伝わったらしい。
「天くん!素晴らしいね!」
「ありがとうございます」
「いやー実は、内心ドキドキしていたんだよ。
この役は、天くんにはまだ少し早いんじゃないかってね。でも、完全に私の杞憂だったみたいだ!
この調子で、撮影の方もよろしく頼むよ!」