第63章 彼氏でしょ
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翌日。
いよいよ、ドラマ “ 愛してると言ってくれ ” のプロジェクトが開始となる。まぁ今日は、カメラが回る事はない。
先述した通り、今日はキャスト同士の顔合わせと、軽い読み合わせの予定だ。
天は、表情を引き締めて扉をノックする。返事を受け、ノブを引いた。
中には、監督。そして数人のキャストの姿があった。主役の男性とヒロインは見当たらない。
ロの字に組まれた長机。天の入室は、席に着いていた全員の注目を集めた。
凛とした笑顔を浮かべてから、彼は一礼。顔を上げ、余裕を持った口調で言葉を紡ぐ。
「失礼致します。姫条 天馬役の、九条 天です。
若輩者のため、行き届かない点もあるかと存じますが、精一杯努めたいと思いますのでよろしくお願い致します」
身内という贔屓目があるのを差し置いても、うっとりとしてしまうくらい完璧な挨拶。洗練された言葉遣いに、気品溢れる所作。
周りにいたキャスト達も、思わず天に見惚れる。一拍置いてから、やっと温かい拍手に部屋が包まれた。
そして、監督が椅子から腰を上げる。
「天くん!いやぁ、今回はよろしくね。一緒に、良いドラマにしよう!」
「出せる力、全て出すつもりで臨ませてもらいます。どうか、ご指導ご鞭撻のほど。よろしくお願い致します」
天と監督ががっしりと握手を交わしたところに、主役の2人が現れた。彼らもまた、天の事を歓迎してくれた。
和やかなムードの中、全員が席に着く。
監督が全員を見渡せる箇所に座り、その隣に主役。その横にヒロインが座った。そして、その隣に天が腰掛ける。
私も、天の横へと静かに座った。