第63章 彼氏でしょ
「でも、もしボク達が恋人になれば、きっと毎日がこんな感じなんだろうね」
『えっ』
天の口から飛び出した、思わぬ話題。私は自分で思っていたよりも大きな声が出た。
「職場は勿論、家に帰っても 互いに切磋琢磨出来る存在なんて、なかなかいないと思うけど。
こんな恋人、どう?」
『ど、どうって…。そんな、今日の晩御飯何にする?ぐらいに軽いノリで言われても…』
「今ならなんと、こんな優良物件がフリーだよ」
『ふふ。なら、数ある候補の中に加えさせて頂きます!』
「生意気」
私の軽口。天はほんの僅かに、口端を上げた。
画面の中のTRIGGERは、ライブを終える。自動でトップメニューへと戻ったのを見て、私はディスクを入れ替える。
天は、まだ観るんだ。と愚痴を零すも、少し嬉しそうだ。
私達のDVD鑑賞は、あと少し続く。
『…うーん。どうやったら、もっと演出の幅を広げられるだろう。やっぱり独学じゃ限度があるのかな。
本を読んだり、他のアイドルグループのライブを参考にするのも大切だけど。もっと効率よく、能力が欲しい』
「近道して手に入るものなんて、たかが知れてる」
『平坦な近道を行くんじゃないよ。私が選ぶのは、険しい近道』
「いいね。そんなハイキングなら、ボクも付き合ってもいい」
『当然!山の頂上まで、天達には付き合ってもらう』
私達は、顔を見合わせて笑い合う。
まぁ冗談はさて置いて。険しい近道があるのならば、私は本気で選び取りたい。
スポーツ選手と同じで、アイドルの寿命は短い。流暢に構えていたら、TRIGGERとて旬が過ぎてしまう。Re:valeという最強の先輩を超えられないまま、旬を終えてしまいました。なんて、笑い話にもならない。
私は、限られた時間の中で彼らをトップアイドルに押し上げるのだ。その為なら、辛くても 険しい道を選び取る覚悟だ。