第63章 彼氏でしょ
『4日後に、監督や共演者との初顔合わせ。さらに軽い読み合わせがあります。それまでに、台本を読み込んで、役作りをしていきましょうね』
「分かった」
「天が演じる役は…姫条 天馬(きじょう てんま)っていうのか。なんか、名前はお前に似てるな」
「うん。偶然らしいけどね。役名を聞いて、親近感が湧いた」
「そういうのって、大切だよね。役に入り易かったりするし」
楽と龍之介は、慣れない役柄に挑戦する天の為に 役作りを手伝ってくれるらしい。
こうして3人で寄り添って話をする姿は、まるで仲の良い兄弟のようだった。
「やっぱ、このキャラなら俺の方が適役じゃねぇか?なんなら今からでも代わってやるぜ、天」
「調子に乗らないで。ボクだって最近は、演技の力も付いて来てる。
同じキャラクターばかり演じてる楽より、経験値は積んでると思うけど」
「は?言ったなお前。俺とお前、今年の出演ドラマ数比べてみるか?」
「だから、数じゃないって言ってるでしょ。ボクの話聞いてた?耳の中に今日の昼食べたハンバーグ詰まってるんじゃない?」
「どうやって飯食ったら そんな悲惨な状況に陥いんだよ!ありえねぇだろうが!!」
「あぁもう2人ともやめろ!ストップ!
ほら、左手に台本持って。右手にはペン持って。早く全体に目を通さないと日が暮れるから!」
『………はぁ』
訂正しなくては。
彼らは、仲の良い兄弟ではない。生意気盛りの末っ子と、荒くったい次男坊。そして、犬猿の仲であるその2人を懸命に取り持つ長男の図だ。