第63章 彼氏でしょ
—————
3日前。
「まじかよ…この役を、天が?」
「そうだけど。なに、不服なの?」
「いや、不服ってわけじゃねぇけど…」
「今まで天が演じて来た役柄とは、かなり毛色が違うよね?」
楽と龍之介は、台本から顔を上げて告げた。2人が違和感を持つのも無理はない。
今回の天の仕事は、ドラマの準主演に当たる役だ。それ自体は、べつに珍しい事ではない。異質なのは、その役柄。
『天は そのパブリックイメージから、爽やかで、純朴な青年の役柄を演じる事が多かったですが。そろそろ、別のイメージを世間に与えるタイミングだと思いまして』
綺麗で、純真。まるで天使みたいな男の子。
このイメージは、たしかにTRIGGERには必要だ。楽や龍之介とは全く違った魅力で、チームを引っ張って来たのは間違いない。
しかし、そのイメージが固まり過ぎると 今度は抜け出したくても抜け出せなくなってしまう。
ここいらで一度、成熟した大人の役柄でドラマに出演し、彼の人物像の引き出しを増やしておきたい。それは、TRIGGERを さらなる高みへ飛躍させる為に必要なステップだ。
『天なら、ちょっと大人な役も熟してくれると信じてます』
「問題ないよ」
「問題ないってお前これ…ベットシーンとかあるじゃねぇか」
「えっ、ベットシーン!?」
『アイドルにそんなシーン演らせる訳ないでしょう。勿論、そういう核心的な場面は思いっきりボンヤリとした演出で乗り切ってもらう契約です。
言っておきますけど、キスシーンもないですからね』
「そ、そうだよね…」
龍之介は、まるで自分の子供の純潔が守られたみたいに、明らさまにほっとしている。
「ボクはべつに仕事なら平気だけど」
「そんなシーンを放送した日には、お前のファンが発狂するだろ」やめとけ
『まぁ仮に撮るとしても、半裸で女性の上で四つん這いになるくらいですよ』
「なんだ!それなら、俺が普段やってる撮影と変わらないね!」
女への馬乗りを、慣れていると言ってのける龍之介。そんな事に耐性を付けてしまって、本当に申し訳ない。そんな気持ちが、私の胸に押し寄せた。