第63章 彼氏でしょ
珍しく定時で上がった平日の夜。私は自宅で夕食の支度をしていた。
またまた珍しい事に、今日は自炊をしてみた。
もうすぐ、ここへ帰宅するであろう “ 彼 ” のために。
「ただいま。エリ」
『ん、おかえりなさい』
鍵が回される気配を感じ、玄関まで急いで移動する。なんとか、玄関先で出迎える事が出来た。
エプロン姿の私を 微笑ましい表情で見つめ、帰宅の挨拶をしたのは…
天だ。
『ご飯にする?お風呂にする?それともー…』
「キミ、一択」
『「……っぷ」』
飛び切りのキメ顔で言い放つ天。狭いマンションの一室で、キラキラオーラを無駄遣いする彼が可笑しくて、私は笑い声を上げる。
それに引っ張られるように、天も歯を見せて笑った。
「ふふっ。ちょっと、はしゃぎすぎ」
『あははっ!せっかく わざわざ先に退社して、気合い入れて待ってたのに笑うなんて酷い』
「キミの方が、笑ってる」
ひとしきり笑い合った後、私はエプロンの紐をぴっと結び直してキッチンへと足を向ける。
『もうすぐご飯出来るからね』
「そうなの?」
『え?食べるでしょ?もう20時になるし…』
「そうじゃなくてボクはさっき、ご飯よりお風呂より、キミがいいって…答えたはずだけど」
『そ、それは…いわゆる言葉の綾って奴じゃ…』
「ふふ、どうだろうね。まぁキミがせっかく作ってくれた夕食なんだから、もちろん食べるけど。
じゃあ手を洗って着替えてくるよ」
私を揶揄うように言った後、天は洗面台へと消えて行った。
私達が、どうしてこんな状況に身を置く事になったかと言うと…
話は、3日前に遡る。