第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
『私が酒を注いだ人間が出世する訳ではないです。私は、この人なんだか上へ行きそうだな と思った人に、酒を注いでいるだけですからね』
「あぁ…なるほど!」
「つまり、その人はキミが酒を注いでも注がなくても出世するってこと?」
『ええ』
「な。真実なんて意外とそんなもんだろ」
楽は肩をすくめてそう言ったが。俺は、それはそれで凄い事だと思った。
エリが出世をしそうだと思った人間は、事実 昇進しているのだから。簡単そうに “ 上へ行きそうだ ” などと言っているが、それを見抜くのは容易いものではないと思う。
その類稀な、人を見抜く眼を培うのに 一体どれほどの人と縁を繋いで来たのだろう。俺には計り知れないが…とにかく、そんな彼女が側にいてくれるのは頼もしい限りである。
「春人。そろそろケーキ食うか?」
『そうですね。
では、私は温かい飲み物を淹れましょうか。皆さん、紅茶と珈琲どちらが良いです?』
「俺が淹れるよ!だから春人くんは座ってて?」
「ボクも行く。キミは紅茶だよね」
『え?そうですけど、私も手伝いま』
「いいから、あんたは座ってろ。男4人も集まったら、さすがにキッチンが狭いんだよ」
『えぇ…』私だけ仲間外れ
楽が言った “ そろそろケーキを ” という台詞。実は、これは俺達3人にとっての合図であった。
無論、彼女へのプレゼントを渡すタイミングの。
俺達は、首を傾げるエリの視線を掻い潜り、ケーキと飲み物を用意する。それと同時に、コソコソと揃いの箱を準備するのであった。