第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
彼女は満足気に、倍にまで膨れ上がったマロニーを啜る。その幸せそうな顔を見ていると、こちらまで嬉しくなってしまう。
「美味しそうだね!量が凄いけど…
俺もいただいてみようかな」
『ぜひ』
「ボクも」
俺達は、それを少しずつ自分のとんすいへと よそう。少しにしておこうと思ったのに、意外とたくさん入ってしまった。マロニー特有のもっちり感のせいで、麺と麺が絡み合っているのだ。
気を取り直して、ちゅるっと口の中へ入れる。すると、意外にも…
「…うん。マロニーが、肉や野菜の旨味を纏った割り下を沢山吸っていて美味しいです。見た目には反した、豊かな味わいになってますね」
「天…ここで食レポの練習すんな」
『いいじゃないですか。努力家で。それに素晴らしい感想です』
「でも本当に美味しいよ!へぇ…新たな発見だったなぁ」
「まあ、悪くねぇか…」
何だかんだ、最後まで抵抗を見せていた楽も、その新食材を気に入った様子だ。もしまたこのメンバーですき焼きをするような機会があれば、マロニーは常連になるかもしれない。
やがて鍋の中はほとんど空になり、逆に俺達のお腹はかなり膨れた。
エリは 満腹感からか息を吐きながら、天井辺りを見つめた。やがて視線をテーブルへ戻すと、天のグラスが空に近い事に気が付いた。
『天。りんごジュース注ぎますよ』
「ありがとう。
…あ、注ぐで思い出した。そういえば、こんな噂を聞いたんだけど」
『噂?』
「会席で、キミに飲み物を注いでもらった人間は近い内出世する」
「なんだそりゃ」
「あ、それ俺も聞いた事あるよ。スタッフさん達が不思議がってた」
楽は、ただの偶然だろうと斬って捨てる。しかし、彼女は目を閉じて思考中。
やがて、もしかすると…と口を開いた。