第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
収録の時間が差し迫っている。俺達は一度、自分達の楽屋へ帰って来た。
そしてスタジオへと向かう途中、会話をする。内容はやはり、今夜の食事会についてだ。
「春人。お前、今日のこと覚えてるなら覚えてるって言っとけよ。それで、普通は俺達の予定も押さえるだろ」
『…まぁ、集まれる人だけでやっちゃえば良いかなと思ってました』
「おい 軽いな!」
『でも、皆さんは覚えてくれてると思ってましたよ。予定も空けておいてくれてると』
春人は、俺達の先頭を歩いている。だから、いま彼女がどんな顔をして話しているのか分からない。
しかし、その声はどことなく弾んでいるような気がした。
『楽しみですねぇ、すき焼き』
「いつの間に、すき焼きに決まったの?」
『え、さっき貴方が言ってたじゃないですか』
「ボクが?」
『はい。霜降り肉をくれるって。霜降り肉と言えば、すき焼きじゃないですか?』
突然 降って湧いた、すき焼きというメニュー。最初こそ戸惑っていた天だったが、すぐに表情が緩む。
「そういうつもりで言ったんじゃなかったけどね。でも、いいかも。子供の頃 お祝い事の時には、よく すき焼きを食べたよ」
「うん!俺も、すき焼きに賛成!皆んなで1つの鍋をつつくのって良いよね」
「ならウチに来いよ。すき焼き鍋あるぜ」
そんなふうに わいわいガヤガヤと談笑をする俺達を、すれ違うスタッフが微笑ましそうな目で見ている。相変わらず仲が良いなぁ と会話をしているのであろう事は、想像に容易かった。
後に楽しみがあると、仕事も気合が入るというもの。俺達はいつも以上に張り切って収録に挑んだ。