第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
「TRIGGERを干すだなんて、冗談に決まってるじゃん!ね、ユキっ」
「………まぁ、そうね」
不自然なくらい、たっぷりとした間を取った千。そんな彼を見て苦笑する百。
咳払いを1つ挟んでから、百は元気な声で仕切り直す。
「っていうかさ!天もユキも、本人をスルーして話進め過ぎ!俺が1番初めに誘ったのは春人ちゃんなんだからね!
で、どうかにゃ?やっぱり今夜はさすがに突然すぎ?」
『…そうですね。残念ながら今夜は都合が悪くて。せっかくのお誘いを断るのは申し訳ないのですが』
「そんなのいいって!オレが無茶言っちゃったんだから!懲りずに誘うからさ、また今度ね」
会食の誘いは断ってくれたが、俺達3人は落胆の色を隠せない。
エリに先約があったと発覚したからだ。これでは、今日という記念日を共に祝う事は出来ない。
「そう。君はいつも忙しいね。今日も接待か?」
『あぁ、いえ。今日のはそういう責務的な用事ではないです』
じゃあどんな用事?と問う千。エリの答えに、俺達は驚かされることとなる。
『今日は、記念日なんですよ。ちょうど2年前の今日。私は、TRIGGERと出会ったんです。
だから今日は、この後 4人で食事に行く予定でして』
「え…春人くん!覚えてたのか…っ!」
「てっきり忘れてると思ってたぜ…」
『忘れるわけがないでしょう。3人との出会いは、逐一記憶してます。
廊下の角で龍とぶつかり、出会ったばかりの天に見惚れ、楽には振り付け師と間違われました』
「おい待て!お前が自分で振り付け師だって名乗ったんだからな!?」
「細かい事はいいよ。それよりちゃんとボクとの出会いを覚えていて偉い。ほら、こっちにおいで。霜降り肉をあげようね」
『天?犬みたいな扱いやめてもらえます?』
よほど嬉しかったのだろうか。天は、先輩の前だというのにエリの頭を わしゃわしゃと撫でた。
そんな微笑ましいシーンを、2人は羨望の眼差しで見つめている。
「く、くそぅ!天が霜降り肉なら、こっちは骨ガム10個だっ!」
「モモ、10個じゃ足りないんじゃない?」
「じゃあ大奮発して、100個あげちゃう!!」
『だから、犬扱いやめて下さいって。
っていうか、骨ガムどれだけ積まれても霜降り肉には敵わないと気付いて下さい』