第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
「もう我慢できねぇ。こうなったら、乗り込んでやる!」
「ちょっと落ち着きなよ」
「そ、そうだよ楽。少し待っ」
「落ち着いてられるか!待ってられるかよ!お前らは悔しくねぇのか!よりによって、こんな日に…あいつは…!
あいつの口から…あんな言葉、俺は 聞きたくなかったぜ…っ」
楽は、ぎゅっと握り込んだ拳を震わせていた。
確かに、彼の言う通りだった。俺も出来る事なら、聞きたくなかった。しかも今日は、俺達と彼女が出会って2年の節目の日。
さっきまでの幸せな気持ちなんて、最初からなかったみたいに どこかへ消えてしまった。
《あっはは!本当にオレ達の事、必要としてるんだね!》
《何度でも言います。私は、貴方達が必要です。貴方達が、どうしても欲しい》
《ふふ。そうまで言われてしまうと、断れないな。いいよ。じゃあ ほら…僕のこの手を、取ってごらん》
怪しく差し出された千の手を、エリは縋るような瞳で見つめている。
やがて…ゆっくりと、腕を伸ばす。
もう見ていられない とばかりに、楽はガっとドアノブに手を置いた。
勢い良く扉が開かれる。しかし、力を加えたのは楽ではない。彼がノブを押す前に、何者かにドアは開かれたのだ。
何者か は、百であった。
「もうっ!なかなか入って来てくれないから、オレの方が我慢出来なくなっちゃったよ!ほらほら、早く入って」
にっこにこと、楽屋内へ俺達を招き入れる百。
そんな彼と、俺達3人の温度差は計り知れない。