第61章 束縛強い男みたいになってねぇか?
俺達が目を付けたのは、オーダーメイドのスーツを販売している仕立て屋だった。他の店と違い、目立つ所にネクタイは置かれていない。
「このブランド、聞いた事あるよな」
「うん。スーツに詳しくないボクでも知ってる」
「ネクタイ置いてるかな?店員さんに聞いてみようか」
すみません、と発しながら龍之介が店内へ入っていく。すると、中にいた店員が落ち着いた所作で歩み寄って来た。初老で眼鏡をかけたその男は、いかにも拘りの強そうな雰囲気を醸し出している。
「いらっしゃいませ」
「あの、プレゼント用にネクタイを探しているんですけど、こちらのお店ではネクタイを扱われてますか?」
龍之介の丁寧な質問。男はにっこりと微笑んで、さらに店の奥へと案内してくれる。
男が立ち止まったが、ネクタイはまだ見当たらない。そう思っていたところ、スーツが立ち並んだ衣装タンスの引き出しが開けられる。
すると中から、コンパクトに収納されたネクタイがズラーっと現れた。
「すげぇ種類」
「色取り取りで綺麗だね」
「これだけ種類があれば、春人くんに似合うネクタイもきっと見つかるよ!」
綺麗に纏め上げられたネクタイ。手に取って、形を崩してしまうのが憚られるくらいだった。
そんな俺の気持ちを読み取ったのか 店員は、どうぞ手に取ってゆっくりご覧下さい。と言ってくれる。それから、さらに続ける。
「宜しければ、ご相談にも乗りましょうか」
「そうですね…
あ、いや。やっぱり一度、自分達で選んでみます。気 使ってもらったのにすみません」
俺が言うと、男は納得したように笑い、店の奥へと消えていった。俺達が気兼ねなく選べるよう、配慮してくれたのだろう。