第61章 束縛強い男みたいになってねぇか?
15分ほど休憩を入れ、そろそろレッスンを再開しようかと立ち上がった。
すると同じタイミングで、レッスン室のガラス扉がノックされる。
春人が、はい。と返事をすると、事務所の受付嬢が遠慮がちに入って来た。
「練習をお邪魔してしまい、すみません。
あの、中崎さんにお客様が見えていまして…」
『私に?今日は、誰とも約束はしていないのですが』
「えぇ。私も、アポをお取りでない方はお通し出来ませんと申し上げたのですが…どうしてもと」
『誰ですか、その雑な人は。どこの誰か名乗りましたか?』
「それが、ただ一言 “ 加藤 ” としか…」
加藤。ありふれた苗字だ。俺も天も龍之介も、春人は会わないだろうと踏んでいたのだが。
春人は その名前を聞いた瞬間、眉間に皺を寄せた。そして、額に手をやって問い掛ける。
『…もしかして、その加藤さん…金髪です?』
「あっ、はい!そうです!」
『……カトちゃんだ』
「「「カトちゃん…!」」」
その何の捻りもないアダ名にも驚いたが、春人が裏で、誰かを苗字以外で呼んだ事こそ驚愕だった。
『すみません。私は少し抜けますので、レッスンは3人で続けていてもらえますか。なるべく……早く戻ります』
「おい。カトちゃんって誰だよ。あんたの友達か?」
『まぁ、友達は友達ですけど。ただ友達ってだけなら、仕事中に会いに行きませんよ』
「ってことは、業界関係の人かな?」
「加藤… 金髪…
あ。もしかして…」
『多分、天が今 思い描いた人で合ってます』
春人は、タオルでざっと汗を拭いて出口へと向かう。
『…はぁ。あの人、たまたま近くに来たから寄ったぜ。とか言って遊びに来るの、本当にやめてくれないかな…』
そんなボソボソとした独り言は、俺達にはほとんど聞こえなかった。
春人と受付嬢がここを去ってから、俺と龍之介は天に向き直った。
そして、加藤というのは何者か問いただす。すると天は、春人が出て行った扉を見つめて口を開いた。
「凰塚製薬の宣伝部部長」