第61章 束縛強い男みたいになってねぇか?
『天、楽。タンタ タータ タン、のところ。ふらついて見えます。軸がブレているのかも。もう少し、ビタって止まってもらえますか』
春人は止めていた音楽を再生して、手拍子でリズムを刻む。そして、龍之介に向き直る。
『龍、ちょっとその部分踊ってみて下さい』
「うん」
龍之介は、俺と天が躓いた箇所を すんなりと決めてみせる。それを見て春人は満足気に頷きながら、また音楽を止めた。
『2人と龍の差は、安定した軸と体幹。ちょっと意識してみて下さい』
俺と天はシャツの裾で汗を拭いながら頷く。
軸と体幹。この言葉を、何度 春人の口から聞いたか分からない。この2つは、こいつがダンスの際に1番重きを置いているポイントだ。
そんな事は、重々承知している。承知しては、いるが…
「っ、くそ!」
「やっぱり、ちょっとブレる。龍は、よくそんなふうに あっさり踊れるね。コツを教えてよ」
「うーーん…コツか。難しいけど…お腹に力を入れて踊ってるかもしれない」
『そう!』
急に声を上げた春人に、3人の肩がビクっと跳ねる。
春人は前へ歩み出て、龍之介の横で膝をつく。
『体幹を意識する上で重要なのは、ズバリ腹筋です!特に、腹筋の中の軸のところと…。ここ、おへその下辺りの筋肉に力を込めて踊る感じで』
龍之介の腹筋を押しながら、春人は力説する。一方の龍之介は、腹筋をいいように触られて どこか落ち着かない様子だった。
俺と天は、繰り返し挑戦してみた。何度かやっている内に、少しずつ感覚が掴めてくる。
ただ一箇所。されど、一箇所だ。
この細かいこだわりが重なって、TRIGGERのダンスはクオリティを上げていく。
どれほど些細な違和感も放っておかず、追求する。そういう春人のスタンスは、好きだ。