第61章 束縛強い男みたいになってねぇか?
【side 八乙女楽】
今日から きっかり2年前のあの日。
俺は、この部屋で奴と出逢った。
おそらくだが、春人はいちいち覚えていないだろう。でも俺の方は鮮明に覚えている。
練習中のダンスを一目見ただけで、手直しすべき箇所を浮き彫りにしたのだ。それで俺は、春人を振り付け師と勘違いした。
その後すぐに本物の振り付け師が現れて、奴がプロデューサーだと知ることとなった。
その時の衝撃と言ったら、いま思い出しても嫌な汗が出るほどだ。
春人との出逢いで覚えている事は、他にもある。それは、不思議な既視感。
奴の顔を見た瞬間、思ったのだ。似ている、と。
「…ん?そういえば2年前 俺は、春人を見て誰に似てると思ったんだ?」
「あ、楽!おはよう。
早いね。俺が1番乗りと思ってた」
「あ、あぁ。レッスン時間は限られてるからな」
頭の中に浮かんでいた疑問は、龍之介の出現によって霞んでいった。
龍之介は、何も言わなくてもストレッチを手伝ってくれる。後ろから ぐっと体を押されれば、膝の裏と背中の筋が伸びた。
俺達が場所を交代したところで、春人と天が現れた。
『おはようございます』
「おう。はよ」
龍之介の背中を押しながら、挨拶を返した。扉を潜る春人を見やれば、否が応でも俺達の初対面を思い出す。
2年前は、今のように白ジャージではなくスーツだったが。
俺がこの男に抱いた第一印象は、怪しげな振り付け師。まさかそんな男と、こうして2年も一緒に歩む事になろうとは。当時の俺が、まだこいつといると知ったら…一体どう思うだろう。