第61章 束縛強い男みたいになってねぇか?
【side 九条天】
今日から きっかり2年前のあの日。
ボクは、このフロアで彼女と出逢った。
こちらに向かってくる彼女の姿を見とめると、勝手に当時の情景が思い起こされる。
ボクと彼女の、出逢いの瞬間だ。
「貸して。半分持つから」
『ありがとうございます』
彼女は、500ミリのペットボトルを抱えるようにして運んでいた。全てスポーツドリンクだ。そこから察するに、彼女もこれからレッスン室に向かうところであろう。
当たり前だが、迷う事なく最短ルートで目的地へと向かうエリ。しかし2年前は、こうではなかった。
キョロキョロと視線を泳がせて、どこか不安げな顔をしていた。そんな彼女に、ボクは声を掛けたのだ。
「キミってさ」
『はい』
「ボクの顔、好きだよね」
『はぁ!?』
「好きでしょ。思わず見惚れるほど」
『な、なな、何を言っているのか分かりません。心当たりが、なさ過ぎてパニックですよ』
「心当たりがなかったらパニックは起きないと思うけど。ま、認めないなら べつにいいよ。もう見せてあげないから」
『……それは寂しいですね』
「ふふ。嘘だよ。好きなだけ見せてあげる。キミにならね」
エリはきっと覚えていないだろうけど。初対面の時、彼女はボクの顔に見惚れていた。でも、あえて教えてあげない。
キミ自身も覚えていないであろう、2年前の出逢いの瞬間。そっとボクの胸の中だけにしまう。
大切な、宝物のように。
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