第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
私達は男性に何度も礼を告げる。
そして、数時間以内に必ず楽のラビッターを更新をすると約束をしてから別れたのだった。
『綺麗だったね、夜景』
「エリ」
『高いところ怖かったけど、遠くを見てたら意外と大丈夫だったし』
「おい。無視するなよ」
『無視してないよ、なに?』
「連絡先」
『あー…私、携帯持ってないんだー』あはは
「2秒でバレる嘘つくなよ」
私は楽と目を合わせないようにして話す。
携帯を持っていないと告げると、それ以上は追求してくる事はなかった。あからさまな拒絶。さすがの楽も、強引には聞き出せないらしい。
『さて、と』
「…エリ、腹は減ってないか?」
『…楽』
「そろそろ減ったろ。な?」
『ううん』
「えっ…と。じゃあ、どこかのバーに飲みに行かないか?」
『楽、そろそろ、帰らなくちゃ』
「……そう、だよな」
心を鬼にして、彼が最も聞きたくないであろう言葉を口にした。
楽は、どうにかして私を引き止める術を考えていたようだが、やがて諦めたみたいに言う。
「分かった。じゃあ、家まで送る」
『ううん。大丈夫、いい』
「……連絡先も教えない。家も知られたくない。か」
私は何も答えない。
「やっぱり、嘘だったんだな。初デートの時にお前を送ったマンション。あれ、お前の家じゃないんだろ」
『…ごめんね』
「エリは、謎が多いな」
『ふふ。秘密の無い女の、何が面白い?』
「はは。懐かしい台詞だ、それ。2年くらい前に、どっかで聞いた事あるよ」
【3章 57ページ】
私達は、最後には笑って別れた。
きっと、エリの姿で楽の前に現れるのは、これが最後だ。