第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
「あいつが俺の為に頑張ってるって分かってたのに。上手く感謝を伝えられなかった。
…駄目だな。大切な奴には、素直でいようって思ってるのに。
明日あいつに会ったら、ちゃんと言わねぇと。
大好きだぜって!」
『ふふ。大丈夫。きっと楽の気持ち、伝わってるよ』
嬉しくて、ついつい顔がにやけてしまう。こんな表情を晒していたら、楽に不審がられてしまうだろうか。
「…エリは、どうなんだ?」
『何が?』
「春人に頼まれたからって理由だけで、俺に会いに来たのか?
それとも…エリも、俺の事が心配だったから 来てくれたのか?
なぁ。どっちだ?」
楽は、大切な人には素直でいたいと言った。それなのに…私は。
素直になれない。本当の言葉を紡げないのが、こんなにも歯痒い。
『私がここに来たのは…頼まれたから。
ごめん。楽』
「……そうだよな。エリは、謝らなくていい。
答えが分かってて、変な事を聞いた俺が悪い。ごめんな」
こんな顔をさせてしまうなんて。私が今日、彼に会いに来たのは間違いだったのだろうか。そんな後悔の念を抱いてしまうくらい、今の楽は悲しげな表情をしていた。
でも だからといって、私が楽に望んで会いに来たと答える訳にはいかない。
だって私は、楽の気持ちに応える事が出来ないから。恋人になってあげる事なんて出来ないから。
「よし!フロアを一周してみようぜ!せっかくエリが好きなゲームとコラボしてるんだからな。あんたも見て回りたいだろ?」
『あ…う、うん!そうだね』
重たい空気を変えようと、わざと明るく振る舞う楽。
彼が陽気に振る舞おうとすればするほど、私は胸が締め付けられた。