第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
外が見えるように設置された、ソファに並んで座る。ワインレッドのそのソファは2人用で、自ずと私達の距離は近い。
「エリは今日、春人に言われて 俺に会いに来てくれたんだよな」
『うん、そうだよ。楽の元気がないから、息抜きに遊びに付き合ってあげてくれって。お願いされたんだ』
「やっぱそうか。あいつ…今日、何かすげぇ変だったんだよ。やたらと絡んでくるし、デートしようとか言って色んなとこ連れ回されたり。
…俺の為だったんだな」
遠い目をして夜景を見つめていた楽だったが、そっと瞳を閉じた。唇の両端は、ほんの少しだけ上がっている。
『…迷惑だった?』
「え?」
『彼に、いっぱい絡まれたり 連れ回されたりしたこと』
質問をしてから、やっぱりやめておけば良かったかも。と思った。
だって、不自然だろう。楽が春人を迷惑だと思っているかどうか、私が気にするのは。でも、どうしても気になってしまったのだ。
私が春人として彼を遊びに連れ出したのは、迷惑でしかなかったのか、と。
しばらくの沈黙。しっかりと自分の考えをまとめてから、楽は口を開いた。
「俺、本当は分かってたんだ。あいつが何の為に、あんな必至になってたのかって。頑張ってくれてたのかって。
それは全部…俺の為だった」
『…それが彼の仕事だからじゃない?
ほら!タレントに機嫌良く働いてもらう為の、メンタルケア。みたいな』
「いや、違うんだよ。あいつは、そうじゃない。
その方が都合いいから 俺を元気付けよう、とか。撮影に影響が出るから仕方なく付き合った、とか。そういう思想で動いてねぇんだよ。
ただ、俺の事を心配してくれてたんだ」
『……楽は、彼を 信頼してるんだね』
「あぁ!
だから俺が、あいつを迷惑に思うなんて 絶対ねぇよ」
楽はそう言って、くしゃっと笑った。
即答、してくれた。信頼してるって。迷惑に思うわけないって。
こんなふうに彼の気持ちを確かめる私は、最低だ。でも、胸が勝手にぎゅっとなるくらい 嬉しい。