第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
「でも、まさかエリが高い所 苦手だとは思わなかった。なのに、何でわざわざタワーに登ろうなんて言い出したんだ?」
『高い場所から見る夜景が1番綺麗でしょ?』
「まぁな」
『綺麗な夜景が、嫌いな人なんていないでしょ?』
「そうかもな」
『楽も、夜景好き?』
「あぁ」
『だからだよ』
目の前のガラスに映った楽の瞳が、ゆっくり見開かれた。しばらくは、その大きな目で私を捉え続ける。やがて、きゅっと眉根を寄せた。どこか苦しそうにも見えるその顔を、私の肩口に沈めた。
背中から伝わる、彼の鼓動が忙しい。首筋に触れる髪がくすぐったいけれど、全然いやじゃない。
「また…そういう事言って、あんたは俺を堪らない気持ちにさせるんだ。
あぁ くそ…っ、やばい。嬉しい」
伝わったのだろう。このデートの目的が。
楽に楽しんで欲しい。癒されて欲しい。日頃の疲れなんか吹き飛んでしまうくらい、幸せな時間を過ごして欲しいという、私の想いが。
顔を上げた楽は、決まりが悪そうに 少しだけ頬を赤らめていた。
「見るなよ、今の俺の顔。絶対、格好悪い顔してる」
『そんな事、ないよ。テレビでは見られない、貴重な表情だよ?』
「それは…多分、褒めては ねぇよな」
『えぇ?褒めてる褒めてる。あはは!』
「笑ってんじゃねぇか!」
楽は何が気に触ったのか、拗ねたように そっぽを向いてしまった。しかし、すぐにまたこちらへ向き直る。
視線を合わせた私達は、なんだか可笑しくなって、声を上げて笑い合うのだった。