第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
1度は手を離していた楽だったが、再度 私の手を取った。
「もう震えてねぇな。大丈夫か?」
『だ、大丈夫。ありがとう』
もしもこの場が貸切状態でなかったら、私は彼の手に縋りはしなかったろう。しかし周りに人目が一切ない今、素直に彼の手を握り返した。
『私の事は、気にしないで。ほら楽!夜景を見てよ!綺麗だよー』
「綺麗だよって…」
私は、ガラス窓から5メートルぐらい距離を取っていた。そんな私を見て、楽は困ったように笑う。
「はは、すげぇ腰引けてる。大丈夫だ、俺が隣にいるだろ?何も怖くねぇよ」
『もし今このタワーに飛行機が突っ込んだら、楽が隣に居ても居なくても関係なくない?』
「そういう真剣な顔してムードぶち壊してくるとこ、ほんとあいつに似てるな」
楽の言う “ あいつ ” が、誰を指すのか。そんな疑問をぶつけないまま、私は曖昧に微笑んだ。
そんな私の手を、楽は引く。
「ほら。平気だからこっち来いよ」
『う、…』
「飛行機も突っ込んで来ないし、震度10の地震も来ねぇよ」
自信満々に笑う楽に勇気をもらい、私はようやくガラスの目の前にまでやって来る。
すると楽は背後に立って、私の前で腕を組んだ。後ろから すっぽり抱き抱えられるような体勢は、気恥ずかしいが安心出来た。
『……綺麗』
「だろ?」
遠くの光の粒に見惚れる私に、彼は言った。
なるべく足元は見ないようにして、遠くの景色に目を向けた。赤や白の光達が、私の目を楽しませてくれる。