第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
楽は、目の前に聳えるタワーに視線を流して尋ねる。
「今日、定休日なんですね。夜景が観たかったんですけど…残念です」
「八乙女さんが、プライベートでわざわざ足を運んで下さったんですか?!
…えっと…プライベート、ですよね?」
男は、チラリと私を見て言った。明らかに、楽と私の関係を気にしている様子だ。見てはいけないものを見てしまったのでは?と、顔に書いてある。
『あっ、ご挨拶が遅れました。私、TRIGGERのマネージャーをやっている者です。
仰る通り、今日はプライベートなんです。彼、たまに夜景が観たいと突然言い出すんですよ。あはは』
「あっ、マネージャーさんでしたか!」
スーツの男は、ほっと息を吐いた。そして、楽に向き直って話を続ける。
「良ければ、特別に上へご案内致しますよ」
「え!いいんですか?」
「えぇ。ちょうどさっき、イベント仕様に仕上がったところなんですよ」
『ちょ、楽。さすがにご迷惑じゃ』
その代わり…と。男はニヤリと笑った。
「今から当タワーを見てもらって、ちょこっと!ほんのちょこーっとで構わないので、ご感想などを 八乙女様のラビッターになど載せて頂けたら…
なんて、やっぱり厳しいですかね?」
「え?いいっすよ、そんくらい全然!むしろ、それでタワーに登らせてもらえるなんて、すげぇラッキーです」
『あ、あの…本当に良いんですか?』
私が首をかしげると、男は何度も頷いた。
そういうわけで 私達は交換条件の元、ソライロタワーへのチケットを手にしたのだった。しかも貸切という、これ以上にない好条件で。
楽は、得意げにウィンクを飛ばす。
「な?言ったろ?
俺は、もってる男だって」