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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第8章 なんだか卑猥で良いね




ぶつかった拍子に、天の黒縁メガネが地面に落ちる。しかし彼は それを拾うよりも先に 転んでしまった女の子へと優しく手を差し伸べた。


「大丈夫?」


優しい柔和な笑顔。その手を差し出す美しい所作。まるで絵本から飛び出した王子様ではないか。私は勝手に1人、なんだか納得してしまって うんうんと頷いた。


「お…王子様…っ」

「『え?』」


天は、不思議そうに。私は、自分の心の中を 女の子に読まれたしまったのか!?と、驚きの声を上げる。
私達の胸中は違うものではあったが、同じタイミングで 同じ文字が口から出たのだった。

天の手を取った その女の子は、目に薄っすらと涙が溜めて言う。


「あ、…あの!私のお願いを、聞いてくれませんか!?」

『何か、お困り事ですか?』


とにかく、話だけでも聞いてみようではないか。私と天は、彼女の言葉に耳を傾ける。


「実は…私は、この後 公演予定の、眠り姫の監督なんです!」


これは偶然も偶然。私と天が拝見しようとしていた演劇の監督だったとは。


「でも…困った事が起こってしまって。
王子様役の子が、さっきのリハーサル中に怪我をしてしまって…!このままじゃ、公演が出来ないんです!」


と、涙ながらに訴える彼女。


『分かりました。彼が代役を務めます』


私は天の両肩に手を置いて、ずいっと前へと差し出した。


「ちょっと!?」


ベタ中のベタな展開。こんな素敵ハプニング、乗っかる他に選択肢は無い。


「ほんとですか!?うわぁっ、ありがとうございます!!」

「待、ちょっと待って!」

『TRIGGERのセンター、九条天が見事に王子役を演じてみせますよ』


どうやら彼女は、彼の正体に気付いておらず 驚きおののいている。

天は、私の首元のネクタイを引っ掴んで自分の顔の方へ寄せる。


「勝手な事言わないで。ボクはゴメンだよ」

『…そうですか。貴方は、目の前で泣いている女の子を 放置するのですね。私には分かっているんですよ。貴方なら、台本を覚えるのにそう時間はかからないでしょう。
それに眠り姫は、王子の露出が多いのは物語の後半のみなんです。不可能な事など、何も無い』

「………っく」


天は、ゆっくりとネクタイから手を離して。諦めたように溜息を吐いた。

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