第8章 なんだか卑猥で良いね
天の口から直接、どうして自分達と距離を取るのか?と言われたわけではないが。
天も、楽も龍之介も、やはり不思議に思っているだろう。
それなりに共に時間を過ごし、それなりに信頼関係も築けた私達の距離が、不自然に開いたままなのを。
理由としてはいくつかある。
まず、私が女だとバレるわけにはいかない事。特に楽は、私の前身であるLioを探している。だから彼には特に、この秘密は守り通さなければならない。
次に、私は期間限定の契約プロデューサーだという事。八乙女社長の満足がいくところまでTRIGGERを押し上げたら、私は彼らとサヨナラだ。本当の絆で結ばれてしまっては、別れが辛くなる。
他には、社長直々に 彼らと深い仲になり過ぎるなという命令が下されているから…というのも一応は理由のひとつ。
『まだライブまでは時間がありますね。他、何か気になるところはありますか?』
星斗の館を出た私達は、あてもなく外をブラブラ歩いていた。
「…こういう学園祭の定番って、どんなの?」
そうか。彼はこういう行事ごとへの知識が豊富では無いのだった。ここはやはり私がリードしないと!
『定番と言えば…。展示とか、ミスコンとか…?あ、あとは劇とかも人気かもしれないですね』
「…劇、か。ふぅん」
いくつか候補を挙げると、劇という単語に興味を示した天。ちょうどその時、体育館の前を通りがかる。
公演があるとするならば、大抵はこういう場所ではないだろうか?
何気無く中を覗けば、タイムスケジュールが貼ってある。あと1時間もしないうちに公演があるようだ。
『九条さん、ちょうど公演があるみたいですよ。演目は… 《 眠り姫 》 だそうです』
「歩き回るもの疲れたし、少し待って観ても良いかもね」
私達がそう決めて、体育館の中へ足を踏みいれようとしたその時だ。
中から飛び出してきた女の子と、天が勢い良くぶつかってしまう。