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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ




今さらこんな事を言っても仕方がないけれど。やっぱり映画の再現なんて、やるんじゃなかった。

ただの演技だって。戯れの一環だって、頭では分かっているはずなのに。心が惹かれる。引っ張られる。引かれる。楽の強い引力に、飲み込まれる。

そんなふうに飲まれた私は気が付いたら、楽の名前を呼んで。物欲しげな瞳で楽を見つめた。


『…が、く……楽!』

「っ、」


私を抱く腕に込められた力が、より一層強くなる。息が詰まるような心地になったのは、そのせいだけではないのだろう。
心臓が、ドキドキを通り越してズキズキ痛む。

もう3度目にもなる、彼とのキス。私はすっかり覚えてしまっている。楽の味も、楽の匂いも、楽の舌の動きも。全部、すっかり私に馴染んでいる。

あぁ、もう…。こんな気持ちになるのは、映画に感情移入し過ぎたせいか?楽の演技力に引っ張られたせいか?

それとも……


『っ、は…っ。楽、映画では、キスは寸止めだったでしょっ、なんでっ』

「俺がエリに、キスしたいと思ったから。これじゃ、答えになってないか?」


濃厚な口付けの後。息切れしながらも、私は楽の胸板を押して 距離を作ろうと身動ぐ。しかし彼は、私の腰に回した腕の力を緩めない。
さらに、横へ逸らした顔を また正面へと持ってこられる。楽の長くて綺麗な指が顎先に触れる。


「もう1回したい。駄目か?」

『っ、…だ』

「駄目って、言うなよ」

『待っ』

「待たない」


私に選択権があるように見えて、実は全然無い。先回りして、拒否権なんて全部奪う。
こんなふうに強引な手段で事を運ぶくせに、与えられるキスだけは、信じられないくらい優しいのだ。

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