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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ




まさかとは思うが、もう1度 同じ映画を観ようという提案だろうか。いや それはさすがに遠慮願いたいなぁ、なんて思っていたのだが。
目的地は、発券機ではないようだ。

どんどん人の少ない方へと歩き続け、やがて辿り着いたのは非常階段。
クリーム色の重たい扉。緑の走る人のマーク。その向こうは、人っ子一人いない静まり返った踊り場だ。


『え、なに?階段で帰るの?ここ15階じゃなかった?筋トレ?』

「デートプランに筋トレは組み込まないだろ…」


小声で話していても、やけに声が響く。


「ここなら、人も来ないだろうし。落ち着いて見せてやれる」

『見せてやれるって、ここにはスクリーンも何も……。あっ』


ようやく、楽がこれから何をするつもりなのか理解した。小さく声を上げた私に、彼は続ける。それは、私が予想していた通りの言葉だった。


「スクリーンを見なくても、本物がここにいるだろ?だから…あんたは俺だけを見てろよ。エリ」

『あ、えっと…うん。これから何が起きるのか理解はしたけど、でも』

「 —— この世の中に、愛し合ってはいけない2人なんて いないと思わないか?」

『……』


そう。楽は、先ほどの映画を再現するつもりなのだ。不特定多数の人間に向けてではない。
私だけの為に。


「それとも…お前は、俺の事が好きじゃなかったのか?俺を愛していると言った あの言葉は…全部、本気のものじゃなかったのか?」


私を見つめる瞳。その瞳の中に、チリっと小さい炎みたいな光が見えた気がした。
楽は、本気だ。

私は思った。これは、ただの再現。ならばこのまま、彼に付き合ってみても良いかもしれない。
この刹那の間だけは、アイドル八乙女楽を 独り占めしてみたい。


『……そんな訳、ない。私が今まで貴方に聞かせた言葉の全てに、嘘偽りなんてものは存在しないわ』

「!!」

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