第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
私達は、エンドロールが始まると同時に席を立つ。本当なら最後の最後まで観たいところだが、混雑するのが簡単に予想出来たので諦める。
『良い映画ってさ…エンドロールが終わるまで、観客が帰ろうとしないんだよねぇ…』
「そういえば、席を立ったのは俺達だけだったな。ありがたい話だ」
『そんな良い映画を!楽のせいで!後半、集中して観れなかったでしょうが!』
私が少し大きな声を出して怒ると、楽は目をパチクリさせて こう言った。
「え…それって、俺が エリの手を…握ったせいか?」
『それ以外に何があるの』
「…………よっし!」
『なんで喜んでんの!?』
小さく睨み上げる私の前で、楽はガッツポーズをとる。この場で踊り出すのではないかと心配になるほどの喜びようだ。
「ははっ!あんたが俺を意識してくれたのが、嬉しいんだよ」
『い…、意識なんて、してませんけどー』
「今さら嘘つくなって。な!」
まだ何か言ってやろうかと思いはしたが、あまりにも楽の表情が喜びに満ち溢れていたので。まぁいいか、と 私は納得しておいた。
「俺は すげー嬉しかったけど…エリには悪い事しちまったな。
せっかく、俺の出てる映画が観たいって言ってくれたのに」
喜びから一転、腕を組んで考え込む楽。
たしかに彼の言う通り、スクリーンで観たい気持ちはあったが。正直言って、もう何度も観ているのだ。内容だって台詞だって、楽の表情だって。私はもう知っている。
だから、そこまで真剣に反省してもらわなくても良い。
私が、大丈夫だよ。と口にするより早く、楽は私の腕を取って歩き出した。
『え?ちょっと、どこ行くの?』
「エリに、もう1回 観せてやろうと思って。さっきの映画の後半をな」