第60章 面倒な男に惚れられたと思って、諦めてくれ
男が真実を知り、物語は急ピッチで進む。男と女は、悩みに悩む。腹違いとはいえ、本当の兄弟。これから自分達はどうするべきなのか。
『……』
(現場で撮影も見てたし、2回は通しでチェックもしたのに。やっぱり面白いなぁ)
「……」
隣に座る男は、今このスクリーンをどんな気持ちで観ているのだろうか?
ふと気になって、そっと盗み見る。
楽は、真剣そのものだった。スクリーンに映った自分を、冷静に見つめている。もしかしたら、後学のために演技チェックでもしているのかもしれない。
私もまた、前へと視線を戻す。すると、さっきまで見ていた男が画面の中にもいて、なんだか不思議な心地だった。
思わず くすりとしてしまいそうになった、その時だ。
太ももの上に置いていた私の手が、大きくて温かい手に包まれた。
『っ!?』
「……」
ほぼ無意識で楽の方を向くと、彼もこちらを見ていた。そして、また耳元で囁く。
「…さっき、こっち見てただろ?だから、手 繋いで欲しいのかと思って」
耳に熱が集まって、さらには顔まで熱くなる。暗い中で、スクリーンからの光に照らされる楽の笑顔は、綺麗だ。
繋がれた手は、互いの指が絡まり合う 恋人繋ぎになっていた。楽の手が下になっていて、私の太腿の上に置かれている。
ちょっと待ってくれと。なんなんだこれは、と言いたかった。しかし口をパクパクさせて楽の方を見ても、彼は既にスクリーンの方を向いているのだ。
その横顔は、なんとも満足気であった。
せっかく、これから良いシーンだというのに。これでは集中して観る事が出来ないこと必至だ。