第8章 なんだか卑猥で良いね
『…もしかして貴方は、私と、友達になりたいんですか?』
階段の数段上から、春人はこちらに向かって手を差し出す。
『いいですよ?もし、貴方が望むなら…てんてんと、呼んであげましょう。
それで仲良くお手てを繋いで、お友達ごっこをしましょうか』
分かっていた。彼がこう言うであろう事は。
ボク達が心の距離を詰めようと歩み寄ったら、いつだって彼はこんな具合だから。
わざと嫌われるような事を言って。わざと突き放すような態度をとる。
「…残念だけど、そんなやすい挑発に乗ってあげられる程 ボクは子供じゃない」
もちろん彼の手をとる事は無く、隣を素通りして上へと進む。階段を踏んで、2段。3段。
彼は 誰にもとられる事の無かった手を引っ込める。それから くるりと春人の方を振り返り、やすい挑発を返す。
「キミがどういうつもりで、ボクを今日連れ回したのかは知らないけど。
こういうのは、本当に おせっかいだ」
『そうですか。それは、申し訳ない』
「でもまぁ、ほんの少しだけ…楽しかったよ」
もう前を向いて、歩みを進めて言ったボクの声は きっと彼には届いていないだろう。
本当は分からないフリをしたけれど。本当は分かっている。
なぜ彼が、ボクをこんなふうに誘い出して 馬鹿みたいに一緒に学園祭を回ってくれたのか。
きっと、ボクの学園生活が寂しいものだったと勝手に想像して 遅れた青春を謳歌させてやろう。とか思ったのだろう。
本当に…分かりやすいお節介だよね。
こんなに分かりやすい考え方もするくせに、やっぱり分からないところも多い。
どうして、彼はこんなにも頑なに ボク達との絆を深める事を拒否しているのか。
いつか分かる日が、来るのだろうか?
こんな気持ちは、ボクらしくない。
所詮 他人の彼と、密接な繋がりを 求めているなんて。
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