第59章 凄く綺麗ですね!
今、3人の心情はこんな感じだろう。
楽。どうして陸に、恋人同士でないと断言されなければいけないのか。カチンと来たのが顔にはっきりと出てしまっている。
ナギ。どうして陸が、私の名前を知っているのか。今すぐにでも問い質したいと顔に書いてある。
そして、私。
『……』
(もしかして、もしかして…もしかして!こ、この子…私が春人だって気付いているんじゃあ…!?)
間違い無く、この場で1番焦っている。まさに、口を開く余裕もなかった。
「おい七瀬。なんでお前にそんなふうに言われなきゃなんねぇんだよ」
「リク。どうしてアナタが、レディの名前を知り得ているのでしょう?」
楽とナギの言葉が、ガッツリと被る。バッと顔を突き合わせた2人は、どちらの話を進めるのかギャーギャーとやり始めた。
その間に、陸はまた爆弾を投下する。
「でも、中崎さんがそんな格好をしているので驚きました!最初はちょっと分からなくて、じっと見ちゃってすみませんでした…
えっと…。趣味は、人それぞれですよねっ」
『あ…ぇう…』
確定した。彼は、気付いている。が。真実に辿り着いていると思いきや、どうやら私を男だと思っている様子。
たとえ本当の性別がバレていないとしても、ピンチなのには変わりない。私は陸を前に、産まれたての赤子語みたいな言葉しか出て来なかった。
「でも、凄く綺麗ですね!」
『え…あ、ありが とうございます』
凶悪犯罪者すらも改心させてしまえそうな、陸の笑顔。この顔を見れば分かる。彼に、悪意なんてものは一欠片もないことが。
後はどうか!どうか…陸が握った私の秘密を、彼の心の内だけに留めておいてくれますように…
私は祈るような気持ちで、眩しい笑顔を見つめていた。