第59章 凄く綺麗ですね!
「OH…なんという事でしょう。ワタシはアナタに出逢う為に、この館へ足を踏み入れたに違いありません」
「え?まじかる★えりりんの映画を観る為じゃなかったの?それに、映画館のこと館って言うのは変だと思」
「SHHH…リクは少し黙っていて下さい。
麗しのレディ。どうかワタシに、アナタのお名前を教えて頂け アウチッ!」
目にも留まらぬスピードで、ナギは私との距離を詰める。そして手を取った。
しかし、私の手を包み込んでいたナギの手は、たった今 楽によって払いのけられてしまった。
「勝手に触るんじゃねぇよ!ったく…こうなると思ったから逃げようと思ったってのに」
「美しいレディに賞賛の声をかけるのは紳士の嗜みですよ」
「それがダチの連れでもかよ」
「OF COURSE!」
「お前…男友達いねぇだろ」
楽とナギが賑やかにしている間、陸はただ黙って私を凝視していた。
ドキリとした。…不思議な感覚だ。彼に見つめられると、心の中を覗かれている気持ちになってくる。この無垢な瞳には、いま何が映っているのか。
私は嫌な予感を誤魔化すみたいに、陸に向かって にこっと愛想笑いを送ってみる。すると陸も、間髪入れずに満面の笑顔を返してくれた。
相変わらず陸が何を考えているのかは分からないが、とりあえず敵意などは微塵も感じられない。
「あ、あまり聞きたくはありませんが…もしや、もしやお2人は…デート中なのです?」
「おう!」
「OH!MY!GOD!
で、では…まさか…こ、恋人同士で あったりするのですか?」
「それは違うな。まだ」
「まだ!まだと言いましたか?!リア充など漏れ無く全て滅んでしまえばいいでーす!」
ナギは頭を抱え、今にも地面に突っ伏してしまいそうな勢いだ。
あまり目立ちたく無いので、出来れば即刻やめて頂きたいのだが…
「あはは!ナギは面白い事を言うんだなぁ。この2人が恋人同士なわけないだろ?
ねっ、中崎さん!」
ピキっと、音を立てて空気が凍った瞬間だった。