第8章 なんだか卑猥で良いね
あと彼は、ボク達に距離を詰められる事を 極端に嫌がる。
ボクだって別に、彼と仲良しごっこがしたい訳じゃない。彼は優秀だし、このままのビジネスライクな関係で満足だ。
『…星斗の館。だそうですよ、九条さん』
「どうせ金券も余ってるんだから、入れば良いじゃない」
どこからどう見ても、入りたいです。と、顔に書いてある。
ボクは受付の女性に、2人お願いします。と告げる。すると待ち時間が無かった為、すぐに入室を促された。
中は、大学らしい大教室。中心には長い階段が一本、緩やかに真っ直ぐ伸びている。普段なら椅子や机が溢れているのだろうが。今日は全部撤去されているらしい。
『…ぅ、わぁ…』
がらんどうな広い空間の中には、星々が数多浮かんでいた。小さい星、大きい星。赤や緑や青や黄色。立体的な物から平面な星。それらは、壁に貼られていたり 紐で空中に浮かされていたり。
窓から差し込む光は、黒くて厚いカーテンで完全に塞がれていて。ここは見事なまでに濃紺の世界となっていた。そんな世界に、満点の星空なんて言葉では片付けられない光景が広がっている。
目の前にまるで異世界みたいな綺麗な光景が広がっているというのに。
何故ボクは、春人の瞳の中に写り込んだ星々ばかり 見つめているのだろうか。
『綺麗過ぎて…なんだか怖いですね。九条さん』
「キミは、頑なにボク達の事を 苗字で呼び続けるよね。
どうして名前で呼ばないの?」
何故ボクは…勘違いしてしまったのだろうか。
何故ボクは…こんな言葉を口走ったのか。
彼とは、アイドルとプロデューサー。そんな関係で良かったはずなのに。
まさか “ 友達 ” に なれるかもしれない。なんて。
どうして思ってしまったのだろうか。
今日一日、彼とまるで友達みたいに時間を共有してしまったから?
分かっていたはずなのに。彼が、距離を詰められるのを嫌う事。