第59章 凄く綺麗ですね!
楽のやってみたかった事が、クレープのシェアだったのが分かったところで。
『……ちょっとこれ持ってて。で、楽はここで待っててね』
「お、おう」
押し付けるように、自分のクレープを彼に預ける。どっちも私のだから食べちゃ駄目だ と告げ、単身でカウンターへと向かう。
そして、ハムと卵の入ったクレープを購入。デザート系よりも手間がかからないのか、それは直ぐに出来上がった。
『はい。こっちが楽の』
「え、あぁ。サンキュ」
私は代わりに、2つの苺クレープを受け取った。
「2個とも、あんたが食うのか?」
『クレープ2つなんて、むしろご褒美だから。楽はそっちの、おかずクレープ食べてね』
「……やばい。惚れ直しそう」
『楽は大食いの人が好みなの?変わってるね』
“ 惚れそう ” じゃなくて “ 惚れ直しそう ” と、しれっと言っていたのは聞こえなかった事にする。
「そうじゃない。俺が甘い物苦手だって気付いて、わざわざ甘くない奴買って来てくれるとこ。そういうとこに、ぐっときたって言ってんだよ」
『……そっか』
相変わらずのストレートな物言いに、なんと返したら良いのか言葉が見つからない。
私は俯いて、右手に持った方のクレープにかぶりついた。すると、またしても楽の攻撃の手が忍び寄る。
「エリ」
『ん?』
「付いてる」
『っ!!』
「ははっ。あんた、前にデートした時も口元汚してたよな」
『あ、あはは…あの時は、ケチャップだったっけ?』
「てりやきソースだ」
『よく覚えてるね!!』
「あんたの事だから。
もしかして、俺の気を引きたくてわざとやってるのか?」
『そ、そんなわけっ』
「だとしたら、作戦は大成功だぜ?」
楽は片目を瞑って、自分の親指の腹を舐める。私の頬に付いていた生クリームは、彼の口の中へと消えたのだった。
クリームよりも甘い彼とのデートは、まだまだ続く。