第59章 凄く綺麗ですね!
「『いただきます!』」
私達は同時に、クレープに噛り付いた。私は 自分のクレープを味わうのもそこそこに、楽の様子を窺った。
「…美味いな」
『……ふ、ふふ…っ』
「ん?どうかしたか?」
『いや、だって』
私は、楽の眉間に指先を当てる。彼は驚いた様子で、目を丸くした。
『そんなふうに眉間にしわ寄せて、美味いなって。あははっ!全然、美味しそうに見えないから!
もう。どうして甘いもの苦手なのに、無理して食べようとするかな』
そう。彼は、甘い物が好きではないのだ。それなのに、自分の分のクレープも甘い物をチョイスしたから、さきほど私は驚いたのだ。
「気付いて、くれるなよ…。恥ずかしいだろ?」
『恥ずかしくなんてないよ。私が2つとも食べられるように気遣ってくれて、ありがとう。でも、無理したり嘘ついたりはしないで欲しいな』
「…あぁ。分かった。でも、どうしてもやってみたい事があって」
『??』
私が首を傾げると、楽は自分が持っているクレープを こちらへ差し出した。そして言う。
「こっちも、食うだろ?」
『…あはは!うん。食べる』
私は、自分の顔に近付けられたクレープにパクついた。楽はそんな様子を、さも愛おしそうに見つめるのだった。
『ん、美味しい』
「俺にも、エリのくれよ」
『で、でも楽 甘い物』
言い切る前に、楽は上背を屈めて 私の手元のクレープに噛り付いた。
私には、甘い物が苦手な人の気持ちが分からない。しかし そういう人にとって、生クリームが天敵だというのは 何となく分かる。
大口で食べていたが、平気なのだろうか?
不安な面持ちで顔を見上げると、彼は笑った。
「ん、甘いな!」