第59章 凄く綺麗ですね!
私達が向かったのは、レンタサイクルショップだった。同じデザインの自転車がズラリと並ぶ。勿論しっかりと荷台付きだ。
チャチャっと手続きして、私は1台の自転車を借り受けた。
「自転車…俺、乗れんのか…。最後に乗ったのはいつだったか」
『ふふん、自信がないなら私が漕ごうか?』
「んな事させるわけねぇだろ?どこの世界に、女に自転車漕がせる男がいるんだ」
言って、彼は自転車のサドルに腰を落ち着けた。その体勢でこちらを振り返る。そして、親指を使って荷台を指した。
「よしっ、乗れ!エリ」
『はは、うん!!』
促されるまま、私は荷台に腰を下ろす。まさか大股を開く訳にはいかないので、横向きに座る。
スカートの裾を内腿に軽く挟んだら、今度は腕の所在に悩む。この腕は、一体どこにやれば…
「ほら、早く掴まれよ」
後ろに座る私を、満足気に見つめる楽。笑顔のまま、膝の上に置いていた手を取った。そして躊躇なく、自分の腹の前へ持っていく。
遠慮がちに、腕に力を込めてみる。楽のウェストと腹筋の感触が生々しく伝わって来て、なんだか柄にもなく恥ずかしい。
「行くぞ!」
『う、うんっ』
楽がペダルを踏むと、予想していたよりも力強く グンっと前へ進む。その勢いに驚いて、バランスを崩しそうになった。思わず楽の腰にしがみ付く。
すると彼は、嬉しそうに 笑い声を上げるのだった。
「わっ、見て!TRIGGERの八乙女楽だっ!」
「え?どこどこ!?
…って、なーんで楽様が自転車乗って、しかも後ろに女の子乗っけてんのよ」
「たしかに。あり得なさ過ぎるね。でも超似てたー!」
「ね。物凄いソックリさんだった!
いやーそれにしても今の2人…めちゃくちゃ楽しそうに笑ってたね!」