第58章 今日1日はお前に付き合うよ
『とにかく落ち着いて。広い視野を持って下さい。画面全体をしっかりと見るんです。
そして、どのゾンビが1番こちらに早く辿り着くのか見極めて。近くにいる歩くゾンビよりも、遠くにいる走るゾンビを優先して撃』
「何言ってんのか分かんないよぉー!!」
『えぇ……』
私は思わず、画面から目を離して少年の方へ顔を向けてしまう。どうやら、私の指南は 子供にはまどろっこしかったようだ。
どう説明すれば、彼にも分かってもらえるだろう。私が思考していると、少年の背後に立っていた楽が背を屈め、その両肩に手を置いた。
「よし!お前は、今から俺が言う奴を倒せ!」
「えっ、う、うん!分かった!」
「じゃあ、まずは左だ!」
「了解!」
「今度は奥の太った奴!」
楽は、優先して倒すべき敵を少年に伝える。その指示は的確で、楽の言うゾンビから撃ち倒していけば、少年はダメージを受けない。
こちらがダメージを受けないということは…
「っヤッターーー!」
「おっしゃ!やったな!すげぇじゃねぇか!」
「お兄さんのおかげだよ!」
少年と楽は、満面の笑みでハイタッチを決めた。私はリザルト画面も確認しないで、そんな2人の弾けるような笑顔を見つめていた。
「うわっすげぇ!お前3面クリアしたのかよ!」
現れたのは、少年の友達だった。彼はリザルト画面を見て、感嘆の声を上げる。
私と楽は、その2人に続きのプレイを譲ると、ゲームセンターを後にするのだった。