第58章 今日1日はお前に付き合うよ
『私は、お姉さんではなくお兄さんですよ』
「あ、そうなんだ。自分のこと私って言ってるから、女の人なんだと思った!」
小学生の、高学年くらいだろうか?私と楽の間から、楽しそうに画面を見つめている。
『貴方も、これをやりに来たのですか?代わりましょうか』
「んーん!今日はお小遣い貰えなかったから、見てるだけ!」
少年は、そう言って首を横に振った。
私はなんだか、昔を思い出した。今でこそゲームセンターで豪遊出来るくらいの金銭力を手に入れたわけだが、子供の頃は当然違った。
クレーンゲームも、シューティングゲームも、満足に出来なかった。1プレイするのにも、まるで命でも賭けるようにドキドキして100円を投入していたものだ。
「俺は もう腕が疲れたから、代わってくれよ」
「え、でも!」
「ほら。お前が早く撃ってやらねぇと、お姉さんがしんどいぜ?」
「あ…うん!ありがとう!」
楽は、少年に銃を握らせた。あと少し その申し出が遅ければ、私が同じ事を少年に言うつもりだった。彼の優しさに、胸がじんわりと温かくなる。
「でも僕、3面クリア出来た事ないんだ」
『なら、私もお手伝いしますので頑張りましょう』
「うん!!」
3面のボスは、大きな敵が出るわけでも、飛んでる敵が相手なわけでもない。ただ、普通のゾンビが大量に出現する。それはもう、わらわらと湧いて来るのだ。
そしていよいよ、そのラストスパートがやって来る。
「っ、やっぱ無理、だよ!」
「いや、マジで多過ぎだろ…これ」
『大丈夫です。落ち着いて。このステージで最も重要になってくるのは、いかに冷静に数を対処できるかです』
私は、少年に迫るゾンビにダメージを入れてから、自分の前に来たゾンビをヘッドショットで的確に仕留める。
そんな具合で、少年の方を先にカバーしてやれば 彼の体力は削られない。