第58章 今日1日はお前に付き合うよ
『ゾンビって、可愛いですよね』
「…気は進まねぇけど、一応理由を聞いてやる」
『だって、こんなにも素直に真っ直ぐ こちらに向かって来てくれるんですよ?こちらは、ゾンビが移動して来るであろう位置を予測して、引き金をひくだけでいい。
人間が操るキャラとの対戦では、こうはいかない。弾を避けようと体を左右に振って来ますからね。
そもそもどうしてゾンビが人を襲うのか知っていますか?彼らの中に残っている欲求が、食欲のみだからなんです。分かります?つまりゾンビ達は、お腹空いたよ〜という一心で人に襲い掛かるんです。
どうです?可愛いでしょう?』
「怖ぇよ」
私のゾンビ愛は全く伝わらなかったが、ゲーム自体は順調だった。ノーコンテニューで、3面がスタートする。
楽は、腕が疲れて来たとぼやいている。そして、これは一体どうやったら終わるんだ?と質問した。
愚問だった。私はこのゲームで、ラスボスを倒すまでにコンテニューした事など1度たりともないのだ。つまりは…全クリするまで終わらない。
「…嘘だろ」
『誰と組んでると思ってるんです?私がこのゲームのハイスコアランキング1位保持者、H ですよ』
「なぁ、実はお前って暇だろ?暇なんだろ」
『失礼な。仕事帰りに、たまにゲーセンに寄って遊んでいるだけなのに』
「あんた、1人でこんなとこ来てたのか…」
3面のボスまであと少し。という場面に差し掛かった時、私と楽の間から、元気な声がした。
「すげーー!!おねぇさん、超上手いね!」
『…私の事ですかね?』
「まぁ、少なくとも俺はお姉さんに間違えられた事はねぇよ?」
ゾンビを撃ち倒しながらも、楽の顔をチラ見する。やはり予想した通り、目を細めていた。きっとマスクの下の口元も、弧を描いているに違いない。