第58章 今日1日はお前に付き合うよ
私は 海老煎餅をひとつ、指で摘んだ。その状態で、湖に浮かぶ鴨を見やる。
『…心なしか、鴨が物欲しそうな瞳をしているように見えますね』
「可哀想だろ。早くやれよ」
私は、摘んでいた海老煎餅を…自分の口に放り込んだ。
「あんたが食うのか!!」
サクサクと、歯触りが良い。本当に海老が入っているのか怪しいものだが、風味だけは凄く海老だから不思議だ。
『まぁ、一度はやっておいた方が良いネタかなぁ。と思いまして』
「心なしか、鴨が絶望した目を向けてるように見えるぜ…」可哀想に
『やめられない とまらない』
「…ははっ!なんだそれ、意味分からねぇよ!」
『え?知りませんか?有名なフレーズですけど』
「いや、そりゃ俺も知ってる。でも、あんたが、すげー真顔で言うから!はは、面白くて…!くく、」
オールを漕ぐても止めて、楽は笑っている。何がそんなにウケたのか分からないが、とにかく彼が楽しそうなので嬉しい。
私は、待ち兼ねた鴨に 海老煎餅を投げて思うのだった。
楽も、海老煎餅の袋に手を入れ、菓子を取る。そして、それを水面に近付けた。羽を広げながら鴨は彼に近付き、手から餌を直接 受け取った。
その様子を見た楽は、目を細めて 可愛いな。と呟く。
「え、やだぁ、あの2人見てぇ、どっちもイケメーン。めっちゃ楽しそうに鴨に餌あげてるんだけど!」
「本当だ、でも…男同士でボート?」
「いいじゃーん、禁断の関係ってやつ?私、俄然そーゆうの好きぃ」
隣から強制的に聞こえてきた会話。
楽は無言でオールを漕ぎ、距離を取った。
「…やっぱ、男2人で来るのは 無しだな」
『そうかも知れませんね』
私は、鴨を餌付けしながら呟いた。