第58章 今日1日はお前に付き合うよ
仕事部屋にて、パソコンと睨めっこ。改めて、楽の最近のスケジュールを見直していた。
そこへ、軽いノックの音と共に姉鷺がやって来る。
「3人共、送迎完了よ」
『ありがとうございました』
「ねぇ、楽だけど。ちょっと疲れてる様子ね」
姉鷺も、私と同じ懸念を抱いたようだ。何と返そうか 少しの間を取る。結局、そうですか。と だけ返事した。
すると彼は、にやにやとした含み笑いを顔に浮かべた。まるで、アナタも気付いてたくせに。とでも言いたげだ。
そんな彼の表情には気付かなかったふりをして、私は再びモニターを睨み付ける。
「アタシはそろそろ帰るけど、アナタはまだやるの?」
『もう少しだけ』
「相変わらず、よく働くこと。じゃあお先に」
『あ、姉鷺さん』
ドアノブに手を掛けた、姉鷺の名を呼ぶ。なんとか扉を開く前に呼び止める事に成功した。
彼は、一度ノブから手を離して こちらへ向き直る。
『ひ、疲弊した成人男性は…どんな事があれば、癒されるのでしょうか』
「あらやだ。アナタ、楽を癒したいのね」
口元を、揃えた指先で隠す姉鷺。しかし、その緩んだ口元は全く隠し切れていない。さきほどの含み笑いの比ではないくらい、今の彼はにやにや顔だ。
私は何も言い返せないのか悔しくて、下唇を噛んだ。
『……』ぐぬぬ
「なんて顔してんのよ。その身なりで変顔やめて!」
『つい。恥ずかしくて』
「何言ってんの。恥ずかしがる必要なんてないでしょ。それに、答えなんて簡単よ」
姉鷺は腰を折り曲げて、顔をずいっと私に近付けた。