第57章 好きな人を追い求める権利すら
「アタシ…あの子に服を作る為に、産まれて来たのかもしれない…」
私の隣で撮影風景を眺める乙姫は、うっとりして言った。彼がそう言うのも頷ける。
先述した通り、近頃の龍之介は神がかっている。
「目線だけ、こっち下さい!」
「 ——— 」
元々、カメラ映えするタイプだったのだが。ここ最近の彼は、特に表現が多彩になったような気がする。
表情のバリエーションが増えた、と説明すれば良いだろうか。
「あの子…あんな顔、出来たかしら」
敏感な者は、当然 気が付くだろう。彼の変化に。
今までよりも、爛々と。全身で、生きているのが楽しいんだ!と物語っているような龍之介。
これは、間違い無く良い変化だ。
私はまた、新たに知った。
恋とは、人をこうも変えてしまうのだと。
「衣装チェンジお願いしまーす!」
撮影で初めての衣装チェンジ。勿論、乙姫自らが龍之介に衣装を纏わせる。
私はカメラマンに呼ばれ、2人の元から離れた場所に移動した。撮影されたばかりの画像を見ながら、龍之介の方へも意識を配る。
またセクハラでもされたら私が嫌な気持ちになるからだ。
「ちょっと龍ちゃん、アナタどうしちゃったのぉ!」
「え?」
「ううん!いいのっ、言わなくても。乙姫には分かってる。
龍ちゃんの目に映る世界が…キラキラしてること。今まで何気なく見ていた風景も、ガラリと変わったんでしょう。そうよねぇ、それって すっごく素晴らしい事よねぇ」うんうん
要領を得ない乙姫の言葉。私にはチンプンカンプンだったが、龍之介には何か通ずるものがあったようだ。
「…はい。何となく、分かる気がします。
俺が今まで気付かなかっただけで、世界って…こんなにも綺麗だったんですね」
「うふふ。やっぱり!龍ちゃんアナタ…
恋してるわね」
多少 ギクリとしたが、私はそれほど心配していない。今の龍之介なら、こんな窮地も難無く躱してくれることだろう。
何故なら彼には、魔法の言葉を授けてある。
「あははっ、それは…
“ ご想像に、お任せします! ” 」