第57章 好きな人を追い求める権利すら
私と龍之介は、並んで楽屋へと戻る。
「春人くん、乙姫さんと飲んだ事があるんだ」
『1度だけです。と言っても、サシではなく他のスタッフやモデルの方も多くいましたが。
あの人、えげつないぐらいの酒豪なんですよ』
負かして名前を覚えてもらおうと思ったが、見事な完敗だった。45度のウィスキーをラッパ飲みするような男には、今後も勝てる気がしない。
まぁ 少しは健闘を認められ、名前を覚えてはもらえたので良しとする。
「ははっ、楽しそうで良いなぁ。あ!次は俺も誘ってよ」
『貴方…さっきセクハラされそうになったでしょう。よくまぁ呑気に…』
「え?」セクハラ?
駄目だ。この人はあれだ。セクハラされても、そもそも自分がセクハラをされている事にすら気付かない部類の人間だ。
やはり、この幼気な男は私が守らなければいけない。
『龍。貴方には防犯ブザーを持たせる事を検討します』
「な、なんで?
防犯ブザーって、あの防犯ブザー?」
『小学生がランドセルの横にぶら下げてるアレですよ。いいですか?もし誰かに変な事をされそうになったら、思い切り紐を引くんですよ』
私は、紐を引っ張るジェスチャーをして 龍之介を見上げた。隣を歩く彼は、首を傾げて言う。
「俺が紐を引けば、君が来てくれるの?」
『飛んで行きます。そして、貴方の体を触ろうとする輩をぶっ飛ばしましょう』
「スタッフさんでも?」
『蹴ります』
「ファンでも?」
『拘束します』
「どこかの偉いスポンサーでも?」
『…………軽めに殴ります』
答えに詰まった私を見て、龍之介は腹を抱えて笑うのだった。