第57章 好きな人を追い求める権利すら
「龍ちゃ〜ん♡アナタがアタシの服を着てくれるって聞いて、今日をずっと楽しみにしてたのよぉ?」
彼が、乙姫。
龍之介とほぼ同じ身長で、全身ピンクのピチっとスーツに身を包んでいる。ハート形レンズのサングラスに、青髭の濃いケツアゴ。歩く時に腰をいちいち左右に引き上げる。
もう、彼の特徴を挙げればキリがない。特徴が服を着て歩いているみたいな人間だ。
しかし、彼のデザイナーとしての腕は一級品。国内にとどまらず、海外にまで その名を轟かせている。
幅広い年齢層に受けているし、デザインの楽しさや魅力を掻き立てる斬新なアイディア溢れるデザイナーだ。
「俺も、乙姫さんと仕事が出来るの 凄く楽しみにしていました!今日はよろしくお願いします!」
「……龍ちゃん。今日の夜、時間ある?アナタとはもっと語り合いたいわぁ。もちろん、仕事以外の話よ…♡」
乙姫の手は、龍之介の臀部へと忍び寄る。
少し離れた場所で見守っていた私。その怪しげな動きを見て、早足で2人の元へ向かう。
『乙姫さん、ご無沙汰しております。この度は、十の起用 ありがとうございます』
「あら春人ちゃん、いたの!相変わらず つまらない挨拶ねぇ」
『つまらない挨拶をして回るのも、私の仕事の内ですので』
「それに、相変わらず綺麗な顔だけど…どうしてか私の好色センサーには反応しないのよねぇ」
『そう言っていただけると、私の心は欣喜雀躍してしまいます』
「あはっはは!それでいて、相変わらず面白いのよねぇ。いいわ、今度また飲み比べしましょっ」
『ええ。次は負けません』
私が言うと 彼は、龍之介に投げキッスを飛ばし、また後でね。と告げた。
そして腰を くいくいと左右交互に上げ、廊下の向こうへと消えて行くのであった。